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わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・哲学・思想の読書日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

小説

古井由吉『ゆらぐ玉の緒』

「年寄りの行方」。年末の慌ただしさを老齢なりにうまくやりすごす語り手の日常の姿からゆるやかにはじまり、タイトル通りの、年末にふいに家を空ける年寄りたちの話しが小さく積み重なっていく。 ゆらぐ玉の緒 作者: 古井由吉 出版社/メーカー: 新潮社 発売…

古井由吉『ゆらぐ玉の緒』

「時の刻み」読了。忙しいのでなかなか読み進まないのだが、そもそも古井作品は慌てて読むようなものでもない。 時の流れ方を、そして時とともに変化する自然の様子を、肉体やら五感やらを通り越して、思念で、あるいは魂で、ゆらゆらと感じている。年をとる…

古井由吉『ゆらぐ玉の緒』

「時の刻み」。カラダの外側から内側に向かって反響するよう時計の音、工場の音、電車の音といった、音の記憶たち。音が時代時代の記憶を伴う。音が、身体に、記憶を深く刻み込んでいく。 ゆらぐ玉の緒 作者: 古井由吉 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2017…

古井由吉『ゆらぐ玉の緒』

「時の刻み」。ここ数年、書き出しは季節の描写から、というのが定石なのだが、この短篇は十九世紀ドイツの詩人であるフリードリッヒ・ヘッベルの作品「秋の景色」の引用から始まる。和歌や俳句、連歌の引用は多かったが、海外作品というのはちょっと珍しい…

古井由吉『ゆらぐ玉の緒』

「人違い」。知人とともにバーを訪れた二十歳の「私」は、バーのママに言われて、終戦の年の、東京での大規模な空襲の時におにぎりをめぐんでもらった女性がママだったことに気づき記憶が甦るのだが、しかし「私」が被害にあったのは荏原、ママは芝、と場所…

古井由吉『ゆらぐ玉の緒』

「群像」最新号、読みたいところは全部読んでしまったので、少し読んで中断していたこちらに戻った。といっても、連載中に読んでたから読むの二度目なんだが。 「道に鳴きつと」の後半。母の葬儀の思い出、地縁、死への想い……に、ベランダから聞いたかもしれ…

磯崎憲一郎「鳥獣戯画」(16)

「群像」2017年6月号掲載。例によって迷走。というか、計算づくなのだろうが。高校時代に飼っていた雑種の白い犬の壮大な旅、そして死。色におぼれた浪人生活。 群像 2017年 06 月号 [雑誌] 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2017/05/06 メディア: 雑誌 この…

橋本治「九十九歳になった私」(9)

「群像」2017年6月号掲載。生きることの退屈さ、面倒くささ。迷走し逸脱し散乱する意識。そのひからびっぷりがおもしろい。 群像 2017年 06 月号 [雑誌] 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2017/05/06 メディア: 雑誌 この商品を含むブログを見る 橋本治の作…

多和田葉子「地球にちりばめられて」(7)

「群像」2017年6月号掲載。 若き言語学者とその母。子離れできない母と、母の扱いに困る息子。一種の共依存、なんだろうなあ。軽快で独特な語り口だが、描かれていることは重い。 群像 2017年 06 月号 [雑誌] 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2017/05/06 メ…

堀江敏幸「二月のつぎに七月が」

「群像」2017年6月号掲載。 もちろん前回とおなじ世界観、おなじ登場人物、おなじ文体なのだけれど、一人ひとりの人生というか今に至る経緯、背景が少しずつ描かれ、ぼんやりしていた人格が徐々に色づきはじめた。 群像 2017年 06 月号 [雑誌] 出版社/メーカ…

磯崎憲一郎「鳥獣戯画(15)」

「群像」2017年5月号掲載。 高校時代の恋愛と友情の記憶。平和だなあ。 群像 2017年 05 月号 [雑誌] 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2017/04/07 メディア: 雑誌 この商品を含むブログを見る 磯崎憲一郎の作品はこちら。

佐伯一麦「山海記」(10)

「群像」2017年5月号掲載。 水害の記憶を求めて熊野方面をバスで旅する語り手は、峠で鹿の群れに遭遇する。 淡々とした三人称(といっても疑似的で実は限りなく一人称に近い)一元描写。説明はあるが過剰な描写は極力抑えられている。抑制が効いているぶん、…

多和田葉子「地球にちりばめられて」(6)

「群像」2017年5月号掲載。 国が消滅し北欧をさまようHirukoは、自分と同郷かもしれない寿司職人の男を探すが…。 一人称多元描写を使って、人種の多様性を巧みに表現している。 群像 2017年 05 月号 [雑誌] 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2017/04/07 メデ…

太田靖久「リバーサイド」

卒業とともに表面的で裏表のある付き合い方を覚えてしまった登場人物たち。読んでいてイライラするのだが、目が離せなくなる。 群像 2017年 05 月号 [雑誌] 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2017/04/07 メディア: 雑誌 この商品を含むブログを見る

太田靖久「リバーサイド」

「群像」2017年5月号掲載。 この作家のことは何も知らない(Amazonで検索してもヒットしないので、たぶん新人なのでしょう)が、自分のマンションが川沿いで、出身地は利根川と渡良瀬川の合流点にあり市の名前も「古河」と川には何かと縁があるので、なんと…

堀江敏幸「二月のつぎに七月が」

「群像」2017年5月号からはじまった新連載。 ある市場の入口近くにある「いちば食堂」での人間模様。庶民感覚あふれる内容なのだが、軽妙さと深遠さが同居した堀江敏幸らしい文体が心地よい。なぜこのタイトルなのかは、いまのところわからない。 群像 2017…

古井由吉『ゆらぐ玉の緒』

「道に鳴きつと」。引越しの最中に他界した母の葬儀のエピソードから、自身の二度の入院の話へ。丁寧で密度のある描写にも関わらず、妙な透明感を感じる。 ゆらぐ玉の緒 作者: 古井由吉 出版社/メーカー: 新潮社 発売日: 2017/02/28 メディア: 単行本 この商…

古井由吉『ゆらぐ玉の緒』

「後の花」読了。老いという現象が人を異次元にいざなう…作品後半は、そんな浮遊感が濃厚に漂う。 「道に鳴きつと」。世田谷にある語り手の自宅で、幻聴のように聞こえた時鳥の鳴き声。ウチの近所ではまったく聞かないなあ。珍しいところで、ウグイスくらい…

古井由吉『ゆらぐ玉の緒』

そして花の記憶は幼少時代の空襲の記憶へ。恐怖や怒りという視点ではなく、そこにいるものの日常の一部として描かれる。たとえ破壊されても、生活がつづくかぎり、それはやはり日常であるのだ、と感じさせる、淡々とした描写。生活は終わらない。この視点や…

古井由吉『ゆらぐ玉の緒』

昨年「新潮」に連載されていた連作。連載中も読んでいたのだが、二月に単行本が出たのでもう一度読むことにした。 「後の花」。ひとまず前半。早く咲いたのに寒さに苦しめられるこの年の桜、そして桜にまつわるさまざまな記憶が、複雑に交錯していく。その交…

佐伯一麦「山海記」(9)

「群像」2017年4月号掲載。 親友の自殺のショックで大量の下血を緊急入院となった「彼」は、症状が落ち着き退院となったものの、ひどい便秘に苦しめられるようになる…。便秘の描写が、凝った書き方はしていないのだが、症状そのものがひどいので、読みながら…

橋本治「九十八歳になった私」(7) 九十九歳になっちゃうじゃないかの巻

「群像」2017年4月号掲載。 来週で九十九歳になる、というタイミングで布団の上げ下ろし中に転んだからといって、介護士の六十代のおばちゃんに無理やり病院に連れて行かれ、結局加齢が原因で大きな問題はない、という診断に釈然としない「私」。「私」はほ…

多和田葉子「地球にちりばめられて」(5)

「群像」2017年4月号掲載。 今回の語り手は、グリーンランド出身のエスキモーの学生。後に彼は彼らとおなじ生肉文化をもつ日本に関心を抱き、第二のアイデンティティとして生きるようになる…。 群像 2017年 04 月号 [雑誌] 出版社/メーカー: 講談社 発売日: …

磯崎憲一郎「鳥獣戯画」(13)

「群像」2017年3月号掲載。 明恵上人の話はひとまず終わり、現代に戻ったと思ったら女優と京都にいるという状況もこれ以上描かれることはなく、なぜか携帯電話をもたない理由について、そして長女の出産時の思い出(ここに携帯電話のことが多少からんでくる…

橋本治「九十八歳になった私(6)」

「群像」2017年3月号掲載。副題が「プテラノドン退治の巻」。ジュラシックパーク的に現代に甦ってしまったプテラノドンが、語り手の老作家の住む仮設住宅のそばに巣を作ってしまったために自衛隊が退治するのだが、アクションが語られるわけでなく、大半は科…

多和田葉子「地球にちりばめられて(4)」

他の言語とは明らかに違う日本語ならではの特徴に、登場する国を失った日本人たちの個性や話す言葉の特徴が重なり合っていく。ドイツ在住で、ドイツ語でも小説を書く多和田葉子だからこそ描けることなのかもしれない。すばらしい。 群像 2017年 03 月号 [雑…

多和田葉子「地球にちりばめられて(4)」

「群像」2017年3月号掲載。 二人目の、地球にちりばめられてしまった日本人の登場? 軽妙かつ浮世離れした、というかふわふわ浮遊しているような独特の文体が、故郷というアイデンティティを失った人を描く小説の文体としてとてもふさわしい、と感じている。…

磯崎憲一郎「鳥獣戯画(12)」

「群像」2017年2月号掲載。 明恵上人の入滅。今日の芸能ニュースにあった清水富美加ちゃんの出家のニュースと重なってしまって、宗教ってなんだろう、という疑問がふつふつと。 群像 2017年 02 月号 [雑誌] 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2017/01/07 メデ…

橋本治「九十八歳になった私(5) 女はこわいよの巻」

「群像」2017年2月号掲載。施設に入る老作家は団子を食べたくなって施設を抜け出し、転ぶ。その姿を見ていた百十五歳のお金持ちのババアが、次の日死んだ。いやあ、めっちゃくちゃおもしろい。そして時折、ずどーんと底に落とされたような気分になる。軽妙な…

多和田葉子「地球にちりばめられて」(3)

「群像」2017年2月号掲載。消滅してしまった極東の国出身の女性Hirukoは、同郷の者を探してドイツで開催されるという「出汁フェスティバル」に向かう……。 繊細で不安定な透明感に満ちた文体。今回の語り手は女性として生きることを決意したインド人の大学生…

佐々木敦「新・私小説論(11)「一人称」の発見まで(承前)」

「群像」2017年1月号掲載。主語の省略の問題と小説の人称の問題。誰が語るのか、という主観/視点の固定化(あるいは流動化)は、映画のカメラワークに似ていなくもない。 群像 2017年 01 月号 [雑誌] 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2016/12/07 メディア:…

長嶋有「もう生まれたくない」読了

「群像」2017年1月号掲載。 冒頭で空母の妄想をしていた、夫を不慮の事故で失った女性の意識が消えていく、そんな描写で作品は幕を閉じる。この女性が他の登場人物や著名人=他人たちのように亡くなってしまったかどうかはわからない。もやもやする。そして…

長嶋有「もう生まれたくない」

小さな盗癖、おんなったらし、イマドキの大学生活、妄想癖…。作品世界全体を覆う「誰かの死」とは関係ないエピソードが鎖のようにつながる。そこに突然、大切な人の不慮の死が挟まる。死は悲しみであると同時に、負荷であり、労務であり、事務処理であること…

長嶋有「もう生まれたくない」

接点のない有名人、微妙に接点のある知人。さまざまな死が、登場人物たちの人生をかすめていく。死は、知らぬ間に日常のなかへ組み込まれていく……。 群像 2017年 01 月号 [雑誌] 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2016/12/07 メディア: 雑誌 この商品を含む…

今年おもしろかったもの、感慨ぶかかったもの 2016年

《文学》 ※新刊だけ ●奥泉光『ビビビ・ビ・バップ』 ●古井由吉「新潮」の連作短篇 ●瀬戸内寂聴「いのち」(「群像」連載中) ●磯崎憲一郎「鳥獣戯画」(「群像」連載中) ●保坂和志『地鳴き、小鳥みたいな』 おもしろい作品に出会えてはいるのだけれど、文芸…

長嶋有「もう生まれたくない」

X JAPANの初代ベーシストの死、そしてスティーブ・ジョブズの死。さらにはMacの「サッドマック」すなわちコンピューターの死(のメタファー)。断続する死。それらに断片的に接する登場人物たち。 群像 2017年 01 月号 [雑誌] 出版社/メーカー: 講談社 発売…

長嶋有「もう生まれたくない」

直線的につながっていた登場人物たちが、急に複雑な人間関係を織りなしはじめた。その、折り目の間に、あるいは中心に、自分たちとはほとんど関係ない人物の「死」が存在している。 群像 2017年 01 月号 [雑誌] 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2016/12/07 …

長嶋有「もう生まれたくない」

「群像」2017年1月号掲載。長嶋有の小説を読むのは何年ぶりだろう。一時期「群像」で連作短篇をやっていたけれど、それ以来かな。ブルボン小林名義のコミック評論やエッセイは時折読むのだが。「たまむすび」にも年1回くらいのペースで出演しているし。 舞台…

磯崎憲一郎「鳥獣戯画」(11)

「群像」2017年1月号掲載。 承久の乱と明恵。私小説的なスタートだったはずなのに、気づけば歴史小説になっている。 群像 2017年 01 月号 [雑誌] 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2016/12/07 メディア: 雑誌 この商品を含むブログを見る 磯崎憲一郎の作品は…

佐伯一麦「山海記」(7)

「群像」2017年1月号掲載。 水害の地をめぐる旅の記録が、どんどん歴史の重みをおびるようになる。このまま歴史小説に変質するのか、と思いきや、友人の死という出来事によって語り手/主人公は歴史空間から強引に現実に引きもどされる。いや、時系列を追う…

今日の事件簿

鼻きれぎれ事件 久々のソーダブレッド事件 俺シャツ買った事件 俺シャツ買った後に妻リュック買った事件 妻リュック買った後にシュトーレン買った事件 シュトーレン買った後に注連飾り買った事件 注連飾り買った後にクッキーもらった事件(ありがとう) クッ…

瀬戸内寂聴「いのち」(9)

「群像」2017年1月号掲載。 大庭みな子の突然の脳梗塞。大手術ののちに見舞いに行くと、寂聴と連れの女性編集者は、包帯ぐるぐる巻きのオバケ状態になっていた大庭から、「河野多惠子は悪人」と言われ、慌ててその場去って寂聴大爆笑。ちょっと悲しい爆笑だ…

多和田葉子「地球にちりばめられて」(2)

先週、今週とやたら慌ただしいので、ちょっとずつしか読めていない……。 (全部読んでるわけじゃないけど)今までの多和田作品以上に、「言葉」へのこだわりが強い。 群像 2017年 01 月号 [雑誌] 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2016/12/07 メディア: 雑誌 …

多和田葉子『地球にちりばめられて』

「群像」2017年1月号掲載。表紙がコケッコー。あ、オレ来年、年男だ。 若き言語学研究者を語り手にした先月号から一転、今月号は国を失った女性Hirukoの視点から物語が展開する。浮遊感と迷子感の強い文体は今回も冴えまくっている。 群像 2017年 01 月号 […

吉行淳之介「焔の中」

戦時中だというのに化粧をして悦に入って婦人会の偉そうなオバハンに目を付けられてしまった女中。その女中を放任する美容師の母、追い出そうとする息子。どうしても、朝ドラ的な視点で読んじゃうなw。田中美里ちゃんがアタマから離れなくなる。 群像 2016年…

吉行淳之介「焔の中」

「群像」2016年11月号掲載。初出は1955年。吉行淳之介を読むのは、たぶん初めてだ。大御所だから学生の頃に読んでいるかもしれないが、全然覚えていない。 眠ってしまったのであまり読めていないのだが……戦時中の日常の描写から作品ははじまる。美容室を開い…

瀬戸内寂聴「いのち」(8)

「群像」2016年12月号掲載。 河野多惠子との友情。屈折した部分と素直な部分の同居。 群像 2016年 12 月号 [雑誌] 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2016/11/07 メディア: 雑誌 この商品を含むブログを見る 河野多惠子の作品はこちら。

舞城王太郎「トロフィーワイフ」

「群像」2016年12月号掲載。 姉にコンプレックスを抱く妹が、姉の奇妙な理由による離婚の危機に首を突っ込むことになる…。 軽妙で読みやすいのに書いてあることはまどろっこしい舞城節は本作も健在。 群像 2016年 12 月号 [雑誌] 出版社/メーカー: 講談社 発…

庄野潤三「プールサイド小景」

「群像」2016年10月号の短篇小説名作特集掲載。同誌の1954年12月号に掲載されていたそうだ。 庄野潤三はたぶん初めて読む。読んだことあるかもしれないけれど、覚えていない、というレベル。まだそんなに読めていないのだが、今のところは、会社の金を使いこ…

安岡章太郎「悪い仲間」

嫉妬、そして心の変化と裏切り。主人公の苦悩の先には、太平洋戦争開戦というパラダイムシフトが待っている。その前払い的な経験だな、こりゃ。 群像 2016年 10月号 [雑誌] 出版社/メーカー: 講談社 発売日: 2016/09/09 メディア: Kindle版 この商品を…