わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

おせっかい

 今日はカミサンの誕生日。Happy birthday.
 早朝は雨音がけたたましく響いていたが、新聞を取りに行くころにはすっかり上がっていた。川のほうまで歩いてみる。さほど増水していない。梅雨とは降ったり降らなかったりがだらだらとつづく状態、という思いこみがあるものだから、こんな空模様こそ梅雨だ、さあ降れさあやめ、と好き勝手なことを考えつつ空を見上げると、どこからともなく飛んできたカルガモがカッチョよく川に着水した。観察しながら屈伸伸脚アキレス腱伸ばしなどしていたら、偶然通りかかった喘息でお世話になっている内科医の先生が、ぼくとおなじカルガモをじっと見ていた。
 午前中は掃除。キャベチョビパスタ(アンチョビ、ガーリック、唐辛子、ゆでキャベツのパスタ)で昼食を摂り、少々昼寝をしてから誕生日のカミサンと吉祥寺へ。三谷幸喜監督・脚本の「ザ・マジックアワー」を観る。詳細別項。
 映画のあとはカミサンの誕生日祝いを兼ねてお気に入りのインド・ネパール料理店「ナマステカトマンズ」へ。窓際の席へ案内されたが、横にいた六十歳くらいのおばちゃん、何があったのかよく知らんが、延々と世の中だの身内だの景気だのに嘆きつづけ、その一方で店内に流れるインドだかネパールだかの民族音楽を、ああいい音楽だ癒される癒される、と絶賛しつづけ、ああこんな音楽のある土地に住みたい金がなくても住めるだろうか金はすべてだまし取られて云々、とそのエンドレスとなり、ありゃま大変な席になっちまった、さてどうしよう、まあボヤキの内容に聞き耳立てておこうか、などと考えていたら、おばちゃん、店のマスターを捕まえて、どうすればネパールに住めるのか、お金がなくても暮らしていけるのか、と本気でどんどん質問している。そうかあっちでホームレスになっちまえばいいんだ、といったことまで言い出す始末でマスターもぼくらも辟易していたら、マスターのヨメのRさんがぼくらに、ごめんねいつも来てくれるのに変な席にしちゃって、あっちに移る? と声をかけてくれた。それじゃ、と移らせていただいた。Rさん、そのあとのおばちゃんへのフォローもしっかりしてくれていた。ありがとうございます。
 別の席で食事を愉しんでいたら、今度は隣りにいた三十代の母親とその娘が、食事の手を止めてなにやら問答をしている。母親の顔がけわしい。問答というよりは母親による娘の学力テスト。よくわからんが、大きな魚と小さな魚を計るだの、ザリガニを計るだの、計るということについて、執拗に問題を出しつづけていたようなのだが、出しつづけていたというのはどうやらこちらの誤解で問題はひとつだったらしい。娘がいつまでたっても正解を出せないので母親が○○○っていうことは、○○ということだから、どうなの? などとヒントを与えている。その口調が叱るようで、いや叱ると言うよりはできない娘にイラついているようなので、いやでも耳に入ってしまう位置にいたぼくらは、これがイマドキの親子関係か、これがイマドキの教育ってヤツか、とつらくなってしまった。どうやらポイントは定規の使い方にあったらしく、母親は大きい魚がありました、定規がありました、はいどうすればいいの、と繰り返している。娘はゴハンを食べずに一生懸命に考えるのだが、どうも答えがちんぷんかんぷん、それを聞いて母親はさらにイライラを募らせ、ついには、あんたにはまったくガッカリだよ、と嘆き出す始末。つらいどころか悲しくなってしまい、他人事ながら、これはこの状態から女の子を救わなければ、と思ってしまった。以下、そのときのぼくとカミサンの会話のダイジェスト。
ぼく:……ってわけで、手がかゆいんだよ。
妻:ああ、かゆいって言ってたね。
ぼく:いつもは腹とかフトモモがかゆくなるんだけど。
妻:そうだね。
ぼく:あと、背中。仕事していると背中がかゆくなるから、ボリボリ掻いてる。
妻:こないだ、孫の手買ったじゃん。
ぼく:うん、100円ショップで。でも、買う前は定規使ってた。定規。定規定規。やっぱ、背中書くなら定規だよな孫の手ないときは。モノを計るだけが定規の役割じゃない。
 と少々わざとらしく声張って話したら、こちらの意図通り母親の耳に入ったらしく、どうやら自分の話していることにネタをかぶせて笑おうとしているらしいこれは恥ずかしいことだ、とこちらの意図通り解釈してくれたのか、その直後に娘を叱るのをやめ、もう食べ終わった、おなかいっぱいになった、と急に母親らしい優しい声で話しはじめた。作戦が功を奏したらしい。母親は、なんだあの男はイヤミなことしやがって、と腹を立てただろうが、娘はようやくちゃんとゴハンを食べることができたのだから、おそらくああしてよかったのだと思う。が、うーん、それともおせっかいだったのかなあ。