わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

ヴァージニア・ウルフ/鴻巣友季子訳『灯台へ』読了

 長かった…。
 一方的に流れてゆく時間により、誰もが変わらざるを得なくなっている。死んだ者もいる。だが、変わらぬ部分もある。思い出だって残っている。もっとも、思い出は埋没すればするほど、自分を追いつめてしまうこともある。
 過去も現在も、苦しみも歓びも、他愛ないことすらも、受け入れること。それによってのみ、人は未来へと踏み出すことができる。そんなことを、ものすごーく遠回りに言っているような気がする。だが本作は、テーマ云々よりもラストに至る過程、そのすべてにおいて、何を描き、何を語ったかにこそ価値があるように思える。ラストに至るまでのすべてのエピソードによって重層的に描き出される、灯台の見える家での暮らし。その全体像と細部の整然としたメチャクチャさ、とでも言えそうな描写が、本作の一番の魅力なんじゃないかな。

灯台へ (岩波文庫)

灯台へ (岩波文庫)

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