「金井美恵子、あるいは物語の作者と作者の物語」。金井美恵子は非常に好きな作家の一人。初期の作品は現在はほとんど入手できないんじゃないかな。講談社文芸文庫に初期短編集があるけど、それくらいだな、たぶん。あと『岸辺のない海』が復刻されているか。『岸辺』は先鋭的な作品。難解だけど。初期の金井美恵子の、メタ・フィクションをつむぎあげる本能的な力を再認識した次第。書くことにおいて、私であることと私ではないものに徹すること、その両方にこだわることで生まれた作品世界。なるほど。
「那珂太郎と山口昌男、あるいは祝祭としての虚無」。山口昌男に関する知識は大学の授業で学んだ+αの程度。那珂太郎に至ってはまったく無知という状態で読んだが、那珂太郎、非常に面白い。悲観主義的な作風だが、言葉を研ぎ澄ませることで、悲観に埋没することを全力で拒否している、という自己矛盾した感じの作風。気に入ったけれど、入手困難みたいだなあ…。孫引きになるけれど、詩集『はかた』に収録されている「作品**」を引用。
ふるふるふるへふりしきる雨の
青じろいアセチレンの炎は惑ひ
のまどろみのなみうつ髪のやみ
にほとばしる蛍となつてぬえ草
の沼を燐めかしすべての存在は
不生不滅ゆゑ石の野に死にゆく
音韻、語感、ビジョン、すべてが一体化して一つの言葉の集合体を形成している。一つ一つの単語を追うなんて無意味。このエネルギーの強さといったら…。
- 作者: 三浦雅士
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1996/10/09
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