わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

高橋源一郎『動物記』読了

 ラストの章は、広義的には動物である人間をも含めた「死」がテーマになっていた。長い人生のなかで繰り返し接してきた人間と動物の死。語り手である「わたし」は、死に心をほとんどゆさぶられない。ただ、淡々とその死を傍観し、死んだという事実だけを、無感情的に受け入れる。決して異常な心理ではないとぼくは思う。死がすべての生物に訪れるものであるという事実を正しく理解しているからかもしれないし、死ということの本質がわからない、考えなければならないという意識が働くからなのかもしれない。あるいは、語り手はありとあらゆる存在に対し、距離を置き、傍観するようにしているから無感情になるのかもしれない。この態度に対する問いに正解はないのだろう。死とは何かという問題に対する明確で的を射た答えがなかなか見つからないのとおなじように。
 個人的には、この「わからない」という気持ちこそが、小説の原動力になっていると思っている。
 
動物記

動物記

 

 

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