「新潮」2016年6月号掲載。
この作家、たぶん読むのは初めて。
スケールが大きく空想的な印象のタイトルだが、津村本人とおぼしき老女性作家がコロンで大腿骨を骨折し三週間ほど入院した時の経験を私小説的につづった作品。夫・吉村昭や師匠(になるのかな)・丹羽文雄などとの思い出もちょいちょい挟み込まれ、瀬戸内寂聴から上等そうなマスカットがお見舞いに送られてきたり、と文壇楽屋ネタ的な雰囲気が濃厚なのだが、やはり高齢名作家の文章らしく、妙に力が抜けていて、他愛もないことなのかもしれないのにグイグイと読み手を惹き付ける不思議な魅力に満ちている。