わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

長嶋有「もう生まれたくない」読了

「群像」2017年1月号掲載。

 冒頭で空母の妄想をしていた、夫を不慮の事故で失った女性の意識が消えていく、そんな描写で作品は幕を閉じる。この女性が他の登場人物や著名人=他人たちのように亡くなってしまったかどうかはわからない。もやもやする。そして、読み終わった途端に読者は本作のタイトル「もう生まれたくない」って何のことだったんだ? 誰の声なんだ? といった問題を突きつけられ、もやもやはさらに深まってしまう。

 特に凝った描写があるわけではないが、連続性のある断片を重ねていく三人称多元描写は、実はとても技巧的。そして、文学の根源と言える「生と死」について、もやもやと考えさせられる。ここ最近ではいちばんおもしろかった。

 

群像 2017年 01 月号 [雑誌]

群像 2017年 01 月号 [雑誌]