遠くからフニャンフニャンと聞こえたな、と思ったら、たちまち夢の世界から現実へ引き戻された。高校時代に戻っていたようだが、よくわからない。学校があり、ぼくはそこでなにかを学んでいる。教えているのは高校一年のときの担任だったと思う。顔は思い出せるが、薄情なもので名前がまったく出てこない。同級生は、実際に高校でいっしょだった人間などほとんどいなかったようである。カミサンがいたのはよく覚えている。ひとになりすました花子もいたようだ。ゆうりさんもいたような気がするが、確信はない。ぼくは授業を抜け出してどこかへ遊びに行く。いや、私的な用事を済ませるためにさぼっているようだ。だがその用事がわからない。ひょっとしたら、仕事かもしれない。学校に通いながらも、コピーライター稼業にも精を出しているのか。そんな記憶がかすかに残っている。農家の庭先でなにやら打ち合わせをしているイメージが強くアタマに残っている。庭にはニワトリが放し飼いにされている。ザルが放り出されていた。縁側でミカンを食べたような気もするが、これまた確信がない。挨拶をしてそこを後にするが、次に向かったのはどうやら子どものころに埋め立て去れてしまった泥沼だ。土を踏みしめると、ヘドロがわき出てくる。何度も沈みそうになりながら水際を歩いた。ドロドロになって学校へ戻った。何かを先生に命じられたような気がするが、これもさっぱり思い出せない。事務所で愛用しているアーロンチェアを突然「これ、おまえのだよな」と渡された。受け取ったが、持ち帰る術がないので困った。そこで花子に起こされた。夢とはいえ、困り果てていたときだ。救われた気分だ。五時三十分。
六時三十分、事務所へ。住宅メーカーパンフレット、証券会社パンフ、不動産チラシ、ラジコンメーカーウェブサイトと、てんこ盛りな一日。忙しくて腸が過敏になっているのか、午前中に三度も大便が出た。
十六時より麻布十番のO社で打ち合わせ。万年筆の広告。
二十一時、業務終了。
多和田葉子「隅田川の皺男」読了。幻想と現実の区別がつかない女。そんな女と接することで、現実がわからなくなってしまった男。ふーん、という感じ。作品はおもしろいんだけど、この作家はなぜか好きになれない。
古井由吉『仮往生伝試文』。競馬。古井由吉は、作品はもちろん文体が好きだ。