わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

抜歯

クッションの下に両手を差し込んで寝て

 昨夜から花子は何も食べ物を口にしていない。今日は抜歯の手術があるため、獣医の先生から絶食を命じられているのだ。たかが抜歯、と笑うなかれ。猫の抜歯は全身麻酔をしなければ行えない。ところが全身麻酔は腎臓に大きな負担を与える。まれに急性腎不全で倒れる猫もいるようだ。それだけではない。突然吐き気をもよおすこともある。そのとき胃の中に食べ物が未消化のまま残っていると、麻酔が効いている最中はうまく嘔吐することができず、咽喉を詰まらせてしまうこともある。
 案の定、四時半ごろから大騒ぎをはじめた。なだめるが、どうしてもぼくには甘えてしまう。そっと和室へ移動し花子をひとりきりにしてみると、そのうち自然と鳴きやんだ。
 
 八時起床。梅雨時のような灰色に濁った空が曖昧に広がっている。小雨がベランダを濡らしている。クルマをもっていないので、どうやって病院まで連れていくか悩んだが、九時前になったらほとんど小降りになったので、自転車の荷台に花子の入ったキャリーバッグをくくりつけた。九時過ぎ、花子をグラース動物病院に預ける。しばしのお別れ。心配ではあるが、ここの先生はどんな状況にも最善を尽くしてくれる、信頼できる方である。すべてを任せよう。そんな気持ちで病院をあとにした。
 
 日中は掃除や読書をしながら花子の無事を祈る。無事、と書くと大げさだが、そうとしか書きようがない。ほかの言葉は、軽々しすぎる。だが、あまり心配しすぎてもよくないことはわかっている。気楽にいこう。そう考えたら眠くなったので寝た。
 夕方、J:COMの工事。
 
 十八時、花子を迎えに行く。診察室に入ると、花子は看護師さんの腕の中で、ウウウと低い声で唸っている。上の歯、三本を抜いたそうだ。歯茎の劣化は予想以上に進行していたとのこと。もう少しケアをしっかりしておけば、と少し後悔したが、これは年齢的にも仕方のないことらしい。今日は水だけ、食事は明日からで、化膿止めの投薬も明日からと指示された。一週間後、術後経過を確認してもらうために、もう一度連れてゆくことにする。
 帰宅。キャリーバッグの扉を開けると、よたつきながら花子が出てきた。まだ麻酔から覚めきっていないためだ。力を振り絞って歩く、というふうでもない。身体がいうことをきかないの、おまけに眠くて眠くて…。もし口がきけたらそう言うに違いない。そんな足取りだ。顔を見た。向かって右側がとくに腫れている。こちら側を二本抜いたのだろうか。がんばったね、とたっぷり褒めてあげたら少し意識が戻ってきたか、急にケッケッと断続的におかしな声を発したかと思うと、前脚を口の中に突っ込み、患部をひっかこうとしている。抜歯した場所が気持ち悪いらしい。大丈夫だから、そんなことしないでじっとおやすみ、そう言い聞かせても手が止まらない。慌てて病院へ連絡すると、院長がエリザベスカラーの装着を勧めてくれたのでもう一度自転車を飛ばして病院へ向かった。ところが帰宅後はすでに花子め落ち着いていて、ちんまりと身体をまるめて休んでいる。カラーは結局使わないことにし、そのままゆっくり休ませた。時折起き上がってはノロノロと書斎の中を歩き回ったが、好きなようにさせた。そばに来たときは、身体をやさしく撫でてあげた。
 
 ただいま二十三時。あれから五時間が経過したが、花子は相変わらず、眠っては起き上がり、場所を変えてはまた眠り、を繰り返したままだ。
 
 高橋源一郎『ミヤザワケンジ・グレーテストヒッツ』。エロをテーマにした小篇は正直言って読むに堪えない。だが、エロでなければ。だからもう少し読み進めてみることにした。賢治の文体をまねた部分がいくつかあったが、これは書いているほうはつらいだろうなあ、と痛感。書けば書くほど、自分の不純さが浮かび上がってくるのではないか。賢治の文体はそれくらいピュアである。