大家は主人公に「悲しみの定義とはなんだ」とむちゃな問いを投げ掛ける。主人公にはわからない。答えたところで、そんなもの定義されてたまるか、と大家に言い返されるだけ。
彼の家で珈琲をごちそうになることを楽しみにしている郵便配達夫が、ふと漏らした言葉。主人公はそれに驚き、反論を並べてみたくなる。
「目的のない希望は、生き延びることができない」
なら、目的のある希望は、どんな形で生き延びることができるのだろう。生き延びた希望とは、実現されていない希望ということにならないか。達成されれば、その希望は死に絶える。それを断絶と捉えるか、希望の再生と捉えるか。
目的をもった希望がゾンビのようにその身を腐敗させながらも生きつづけてしまう状況。それこそが「悲しみ」の定義なのかもしれない。