解説で江國香織が、本作を「嘲笑いがいっぱい」と評するのは解せない、といった主旨のことを書いていた。うーん、ちょっと違うんじゃないかい、江國さん。
本作には嘲笑いが満ちているのは事実。そして、これはある意味自虐的な笑いなのではないか。主人公の若き小説家、善彦は当時の若者らしい冷めた目で自分の小説家としての未来を悲観し、文壇や文化人たちや世間の流行などに対し批判的でありながらも、自分は年上の女性と不倫という泥臭いことをしつづけてしまう。その不倫相手となってしまった桜子もまた、キャリア志向の女性たちに憧れを抱きつつも批判し、そして専業主婦である自分の生き方に悲観的になる。誰かが誰かを嘲笑いすれば、それは自分自身を嘲笑うことにつながる。現代社会が持つゆがんだ構造が、滑稽さと悲しさの同居したものとなって登場人物たちに襲いかかる。どっちつかずの状態でありながらもダラダラとストーリーの中で躍らされる彼らはみな、まさにタイトル通り「道化師」にほかならないのだ。
- 作者: 金井美恵子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 1999/07
- メディア: 文庫
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