ここのところ軽めの文体の作品ばかり読んでいたせいか、その反動で古井作品を猛烈に読みたくなってしまった。
まださほど読んでいないが、古井お得意の、日常に潜む狂気を巧みに描く秀作、という感じ。書き出しが強烈。
腹をくだして朝顔の花を眺めた。十歳を越した頃だった。厠の外に咲いていたのではない。
どうでもいいエピソードのようだが、異常な雰囲気が充満している。たったこれだけの文章を読むだけで、読者はたちまち十歳の腹痛を起こし、便所や道端で尻を出している子供の気分になる。
古井は他の作品でもこのシーンを別の記述に変えて利用している。実体験なのだろうなあ。本作では「杉尾」という名の男の記憶として描かれているが。
この杉尾という男が、献血の場で、風変わりな女と出会う。文章には淫靡な雰囲気がただよっているが、淫靡なシーンには突入しない。不思議な作品だ。
- 作者: 古井由吉,松浦寿輝
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2003/05/10
- メディア: 文庫
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