ひとりの専業主婦の日常に鬱積する小さな不平不満を様々な角度から描くことで、小さなしあわせを描いたり壮大な物語を描くよりもよりリアルに、生活の本質をえぐり出している。不満からしか本質が見えないというのは皮肉なことだが。主人公である主婦・夏実の生活は淡々とし大きな変動などまるでないのだが、周囲では引越しだの自殺の噂だの動物虐待だの不倫だの主婦ビジネスだのと意外に騒々しい。その騒々しさに身を置き、それらと自分のあいだの接点や共通点、あるいは相克する点を何気なく、暮らしながら考えることで小さな不満が際立ってくる。だが、案外の小さな不満こそが生活の原動力になってもいるのだ。主婦が不満を感じて、何が悪い。そこから抜け出さなくて、何が悪い。ちゃんと前には進めているらしいじゃないか。その曖昧な感覚自体が実は許せないんだけど。そんな叫びが聞こえてきそうな傑作。
- 作者: 金井美恵子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2002/02
- メディア: 文庫
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