自虐的な二日酔い。独りよがりな反抗。身勝手で稚拙だがなにやら芸術的な趣のある奇行。
当時の若者の「若さゆえ」という雰囲気が、ゲップが出るほど濃厚。今の金井の作品からは想像できぬくらい青臭い。例えば、主人公が電話ボックスででたらめな番号に電話をかけ、不通のアナウンスを聞きながら一方的に、その自動アナウンスをおそらくは巻頭に登場した少女に見立てて(電話の順番待ちで後ろに並ぶサラリーマンの苦情に逆ギレしながら)語りかけるシーン。ちょいと引用。
それより、これから、ぼくは何をしたらいいと思う? 何もすることがないんだよ。そう、何ひとつすることがないんだ。まったくひどい状態だよ。わかるだろ? ぼくは今までだって何ひとつやってこなかったんだ。書くことの他にはさ。こうして、きみから遠く離れて話しかけていると、自分が誰なのか思い出せなくなっちゃうよ。きみが答えてくれたらいいだけど、きみは一度だって答えなかったし、答えられなかったんだ。答えてしまうことが答えられることを、ぼくらは一番恐れてたからね。でも、それがぼくらの一番もとめていたことだったということが、今はわかるんだよ。ぼくはきみのところに戻るだろうか。あるいは、きみはぼくのところまでやって来るだろうか。きみともう一度あうことができるだろうか。きみの返事を待ってるよ。
- 作者: 金井美恵子
- 出版社/メーカー: 中央公論社
- 発売日: 1974
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