わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

伊藤比呂美『伊藤ふきげん製作所』

 思春期の娘ふたりとの、ふきげんさに満ちた日常を描きつつ、思春期の不安定さの正体を暴き出そうと(?)する快作エッセイ。
 ふたつめかみっつめのエッセイで、娘が自分に生えてきた陰毛を「ちん毛」と呼んでいるという下りにはショックを受けた。言葉が変質している、その現場を目撃できたからだ(読んで、だけれど)。
 ちん毛にはいろんな思い出がある。一番よく覚えているのは、高校のとき。おなじクラスにスズキくんというヤツがいた。天然パーマだった。
 オマエの髪の毛、ちん毛みたいだな。
 うるせーよ。
 陰毛。
 うるせーよ。
 と、こんな会話をよくしていたのだが、ある日、スズキくんはぼくの頭髪のアホみたいな直毛の中からうにょうにょとうねっている髪を無理やり探し出し、オマエの髪の毛も陰毛じゃねーか、と反撃してきた。これ以来、ぼくはスズキくんを「陰毛」と呼び、スズキくんもぼくを「陰毛」と呼んで罵り合うようになる。陰毛対陰毛の戦いだ。だが、ときには味方同士にもなる。例えば体育。授業でサッカーをするときは、いつもぼくは「陰毛!」と叫んでから彼にパスを回していた。陰毛のヤツも、「陰毛!」と叫んでからぼくにパスを回す。陰毛コンビ。チーム陰毛。呼び方がよかったのか、ぼくらのコンビプレイは最高の相性だった。もっとも、ぼくと陰毛以外のメンバーは、ぼくらの関係というか呼び方が、ややこしくてしかたなかったらしい。って、全然本作と関係ないこと書いちゃったよごめんね比呂美ねーさん。

伊藤ふきげん製作所

伊藤ふきげん製作所