わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

松浦寿輝『半島』

 三章目「易と鳥」。旧銅鉱山の坑道の探検。そして、易者のロクさんからの贈り物のインコ。このインコは、どのように生きるかに迷う者が羽ばたくには風が必要だ、というメッセージではないか、迫村は受け取る。坂道を降りるときに感じた風、アップダウンの激しい地下坑道をトロッコでぶっ飛ばしたときに感じた風、インコが深夜に見せてくれた大きな羽ばたきのシルエット。迫村は、このさびれた街で自分に風が吹くのを待つ……同時に、不安も感じつつ。暗喩のつながりが物語の激変を予想させるが、どうなんだろう。ラスト、ちょっと引用。

 坂道を下ってゆく。なるほどそれは生の秘密の奥処に下ってゆくことであるかもしれない。しかし下り坂からも上り坂からも一挙に離脱し空高く駆け上がる瞬間もまた生の時間の一部であるはずではないか。いやそれとも、そのとき人はもはや生の時間それ自体から離脱することになってしまうのか。わからない。それを知るためにも、いずれにせよ風の到来を待たなければなるまい。だがはたして俺は正しい風を待っているのだろうか。結局人は間違った風を待つことに生涯を費やしてしまうのではないだろうか。

半島 (文春文庫)

半島 (文春文庫)