わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

古井由吉『白暗淵』

 表題作。空爆で母が爆死し、自分は奇跡的に生き残った少年。生き残ってからの少年は子どもらしさからかけ離れた飄々とした感じ。奇跡的に生き残ったということは、ネガティブに言い換えれば「死に損なった」ということ。生き残ってからのちは、生と死の境目に意識がある、ということか。子どもとは、もとより生も死も望まず、いや、望むも何も、そこまで意識がおよぶことなどなく、ただ毎日を受け入れるように生き、その都度都度の楽しさのみを享受する生き物なのかもしれない。一度死の淵から助かったとしても、もとより死の淵の向こう側になど容易にいけてしまうのではないか。子どもはやすやすと、あの世の視点とあの世の言葉を手に入れてしまう。ただ、大人だけが手垢に汚れた生にしがみつき、執着にまみれた悲しみにただただ埋没しつづける。