「新潮」で今月からはじまった連作短編の第一作目。昨夏に手術したことは知っていたが、どうやらその前後の体験に基づいた、私小説っぽさの色濃い作品。ただし、単なる私小説ではない。
十七年前に行った手術とまったく同じ施術をすることになった老作家が、妙な連句の独吟にとらわれてしまう。おそらくは、その行為にどこか狂気を感じてはいるものの、それを受け入れるだけの妙なゆとりがある。いや、老齢ゆえの自己客観視か。連句と現実世界との曖昧な往復。挟み込まれる入院前後の細かな日常は、連句によって際だちも深まりもせず、ただただ平行線を辿ってゆく。
昔から狂気のさまざまな形を描き続けた古井さんだが、ここ数年は老いと死をどうとらえるかにテーマがシフトしているように感じた。だが、それは傑作『野川』『辻』、そして単行本小説最新作『白暗淵』で一区切りついた、ということか。老齢から見る狂気、という視点は『忿翁』に通じるような。
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