硬質かつ難解で、価値観や時代や自分自身、あるいは愛する者、さらには詩そのもののの死と破滅を強く意識した言葉たちが、鋭く突き刺さってくる。本作が発表されたのは昭和三十一年、戦後の何もかも破壊された後の「再生」が進む状況でこのような言葉が次々と生み出され続けたのはスゲエと思う。
「四千の日と夜」は、田村の処女詩集なのかな? その表題作。書き出しがとても気に入っている。
一篇の詩が生まれるためには、
われわれは殺されなければならない
多くのものを殺さなければならない
多くの愛するものを射殺し、暗殺し、毒殺するのだ
(中略)
記憶せよ、
われわれの目に見えざるものを見、
われわれの耳に聴こえざるものを聴く
一匹の野良犬の恐怖がほしいばかりに、
四千の夜の想像力と四千の日のつめたい記憶を
われわれは毒殺した
一篇の詩を生むためには、
われわれはいとしいものを殺さなければならない
これは死者をよみがえらせるただひとつの道であり、
われわれはその道を行かなければならない
(「四千の日と夜」)
続いて、とても気に入った作品。これも引用。
空から小鳥が墜ちてくる
誰もいない所で射殺された一羽の小鳥のために
野はある
窓から叫びが聴こえてくる
誰もいない部屋で射殺されたひとつの叫びのために
世界はある
空は小鳥のためにあり 小鳥は空からしか墜ちてこない
窓は叫びのためにあり 叫びは窓からしか聴こえてこない
どうしてそうなのかわたしには分らない
ただどうしてそうなのかをわたしは感じる
小鳥が墜ちてくるからには高さがあるわけだ 閉ざされたものがあるわけだ
叫びが聴こえてくるからには
野のなかに小鳥の屍骸があるように わたしの頭のなかは死でいっぱいだ
わたしの頭のなかに死があるように 世界中の窓という窓には誰もいない
*
(中略)
*
空は
われわれの時代の漂流物でいっぱいだ
一羽の小鳥でさえ
暗黒の巣にかえってゆくためには
われわれのにがい心を通らねばならない
*
(後略)
(「幻を見る人 四篇」)
- 作者: 田村隆一,平出隆
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1997/04/10
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