「四千の日と夜」から数編読んだ。
敗戦から復興し、日本が混乱から秩序へ向かう中、田村は詩人として何を考えていたのだろう。「遠い国」という作品では、自己も、社会も、そして自分が書いた(他人が書いたのも含む?)言葉、詩そのものも否定しているように思える。いや、否定せざるを得ない状況なのかもしれない。何がそこまで追い込んだのか。しかし。この作品には、追い込まれた果てに辿り着いた一種の悟りとでも言おうか、何かが抜け落ちたような、妙な気楽さが伺える。否定の果ての気楽さというか、死を自覚した者のみが到達できる悟りというか。それが自己肯定なのか、それとも新たな何かの発見なのかはよくわからない。極限まで軽くされ身をそぎ落とされたような言葉たちは田村らしくはないのだろうけれど、とても気に入ったので全文引用。
ぼくの苦しみは
単純なものだ
遠い国からきた動物を飼うように
べつに工夫がいるわけじゃない
ぼくの詩は
単純なものだ
遠い国からきた手紙を読むように
べつに涙がいるわけじゃない
ぼくの歓びや悲しみは
単純なものだ
遠い国からきた人を殺すように
べつに言葉がいるわけじゃない
- 作者: 田村隆一,平出隆
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1997/04/10
- メディア: 文庫
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