「千日手」。四谷あたりにある古びたアパートの二階にある将棋倶楽部が、実は現実には存在しないものだった、というよくある怪談。なのではあるが、存在がふわりと消えるその感覚は、連作短篇の最後を飾るにふさわしい。
一話一話は、ギリギリのところでかろうじて物語の体裁になっている。が、これらは物語というよりも、(虚構の、だけど)世界に溢れかえる不思議な存在のひとつひとつをマクロ写真のようにクローズアップしていった、というイメージのほうが近い。
このマクロ写真が動き出したら、『半島』のようなダイナミズムと幻想性の両立した暴発する物語となるのかもしれない。
- 作者: 松浦寿輝
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2005/06/10
- メディア: 文庫
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