「群像」5月号より。この評論家のことはよく知らない。「批評空間」あたりによく書いているようだが、この評論を読んで頭の下がる思いがした。文芸評論集、あるならがっつり読んでみたいのだが、Amazonで検索した限り、一冊も見つからなかった。うーむ。
『白暗淵』は、ここ数年は生と死の境界線をテーマに書き続けていたらしい古井の、ひとつの到達点だと思う。「群像」での連載時に読み、単行本になってからももう一度通読したが、他者を一切寄せ付けず、ひたすら緊張感のありすぎる文体でつぶやき続けるスタイルには圧倒されっぱなしだった。あの世とこの世の境界線を往復する連作小説、その世界観の重なり方がとてもおもしろかったのだが、その魅力の由来や古井さんの文学的な目論見が今ひとつ見えてこず、もどかしい思いをしていたのも事実。そこで本稿の登場である。「小説の持続を支える、ほの暗い場所からたった平折で言葉をつぶやきつづけるある男は、死のぎりぎりにまで近付くことによってこそ、つまり、自らが経験した一番最初の出来事のあった場所に近付くことによってこそ、再び、三たび、生の活力を得ることができる」という解釈で納得してしまった。他人の読みに影響され過ぎるのはよくないことだとは思うのだが、でもこの『白暗淵』論には、そういうレベルを超えた説得力があると思う。もう一度『白暗淵』を読み直してみようかな。
- 作者: 古井由吉
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2007/12/07
- メディア: 単行本
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