わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

佐伯一麦『ノルゲ』

 ノルウェーの二大文豪である(らしい)、イプセンとビョルンソンの墓を探す主人公。気になる箇所があったので引用。「おれ」は、なぜそう思ったのか。

 今度こそ、あれだろう、と大きな墓へ近付いていっては、見知らぬ人の名を墓石に読んですごすごと引き返す、そんなことを小一時間ほど繰り返した挙げ句に、白樺を背に柵を巡らせた敷地に、五、六メートルはありそうな先の尖った角柱の墓碑を見つけた。心をせかして近付いていくと、石塔の前に置かれた厚い墓石の中央に、「HENRIK IBSEN」とくっきり刻んであるのが一目で見て取れた。(中略)
 十メートルほど離れたところに、ビョルンソンの墓はすぐに見つかった。白樺の大木の下に、巨大な平らな墓石が置かれてあり、中央に「BjØrunson, 1832-1910」と彫ってあった。
 盟友が墓地を共にし、それも互いに付かず離れずの距離に寄り添っているのを確かめて、おれは心が静まるのを覚えた。

 人間は一人では生きられない。そして死後も一人でいることはできない。死後の孤独は、生きる者に深い悲しみを与えてしまう。そしてそれだけではなく……。そういうことだろうか。

ノルゲ Norge

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