ひとまず井上さんのまえがきと、比呂美ねーさんの「あとがきに代えて」だけ読んだ。本編は、あとで腰をすえてじっくり読む。でも、その前に『SLAM DUNK』を読むべきかな。なんせ、井上作品は『バガボンド』しか読んでないのだ。
(前略)どんなに武蔵が殺しても(またその殺し方は、心がいちいちこもった、丹念きわまりない殺し方なんですけれども)、人の死は、重くて苦しいままです。
それでいいんだと思うんです。
ねーさんはこのように書いている。
なるほど、と思う一方で、正直なところ、少々違和感も。ぼくは『バガボンド』の殺戮シーンを読むたびに、重さだけではなく、とんでもない軽さ、それも奇妙でとらえどころのないような軽さ、その両方を感じていたのだ。それが何によるものなのかが今までわからなかったのだが(というよりも、深く考えようとしなかっただけ。読みがヌルいんだよね。それに比べてねーさんの読みの、深いこと熱いこと。汗顔の至りです)、ねーさんのこの「あとがきに代えて」がヒントになって、ようやくわかってきたような。
ぼくの感じた軽さ。その正体は、おそらく死を踏み越えてまでして得ようとしている、絶対的な「強さ」という目標(「天下無双」ですな)、それが本質的に含む禍々しくも悲しい虚しさ(なんだこの表現は……)、なのではないか。武蔵がどんなに相手を倒したところで、武蔵は自分の思い描く「強さ」に到達しきれていない(今のところは)。吉岡七十人斬りの最中に体感した無我の境地のごときものも、一度我に返ればたちまち消える。どんなに求めても到達できない「強さ」という目標は、人の死の重さを易々と無にしてしまう。命の尊さに目を向けつつも、斬りつづけ、殺しつづけること。その覚悟の重さの前には、どんな死だってたちまち霞んじまう。その、霞みっぷり。これがぼくの感じていた「軽さ」の正体なのではないか。そして、その「軽さ」にも目を向けずにいられない武蔵の生き方は、何にもまして、ひたすらに重い。
などと書いてしまいましたが、たいして読み込んでもいないのに、おこがましいかな。ねーさんごめんなさい。
命の重さについて再考させてくれたこの作品には感謝。ありがとうございます。
- 作者: 井上雄彦伊藤比呂美
- 出版社/メーカー: スイッチパブリッシング
- 発売日: 2008/05/24
- メディア: 単行本
- 購入: 3人 クリック: 13回
- この商品を含むブログ (25件) を見る
- 作者: 井上雄彦,吉川英治
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/05/23
- メディア: コミック
- 購入: 7人 クリック: 24回
- この商品を含むブログ (77件) を見る