「霜月--りこんのくるしみ」。タイトル通り。自分でも気づかぬほどの傷の深さ。
「師走--これから」。これから、というのは、これから更年期、ということ。
経緯なり状況なりを積み重ねたりねじ曲げたり時折消したりはしごをかけたりしていくのが文学の基本的な方法であり、それを、あるテーマなりコンセプトなり背景なりにおいて、どのように構築し展開していくかが書くことの、そして読むことの魅力の根幹になっているとぼくは思っているのだけれど、本作はそんな考えを徹底的に否定する。つまり、本作を占めている要素は、多少は経緯なるものが書かれているとはいえ、大きくは原因と結果(あるいは結論)という二点なのだ。このやり方は人生相談をはじめとする実用書のそれであり、帯に書かれていた「文学と実用書のハイブリッド」という点も納得できるのだが、人生の迷路を欲望やら自我やら外的な力やらに翻弄されながら彷徨うような作品を独自の言葉で、ときには他者の声を借りながら展開していた比呂美ねーさんのこれまでの文学的方法が失われてしまっている感があるのは、愛読者としてはとても残念。だが、本作はそういう視点で読んではいけないのだろう。ときに読み手をはっとさせるような描写なり表現なりに歓喜狂乱しつつも、「伊藤しろみ」と名乗る、おそらくはねーさんが自己投影することで生み出した本作の語り手キャラ(更年期でもキャラなら産める--キャラを産むことも、比呂美ねーさんにとってはウンコといっしょなのかな)が、どんな人生哲学をもち、どのようにこれまで苦しみを解決解消してきたのか、その生きる処方を知るための本として受け取るべきなのだ。
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