「よろぼし」。手術後の、装具で不自由の身となった主人公の、身体の不調に追随するように、微妙に狂う精神。退院後もそれはわずかながら尾を引き、その惑いのような感覚が、死んだ旧友・奈倉の幻影を呼び起こす。
淡々と日々を過ごしながらも、常に死を意識し、しかしだからといって怖れたり悲しんだりするのではなく、ただただ、訝しむようにして生きる。それしか道はないではないか、というような生き方は、破天荒さなど微塵もないものの、不思議と無頼に感じられる。死と淡々と向き合う態度。これこそがタイトルにある「楽天」の本質なのかもしれない。
この作品、古井流の生命賛歌と受け取った。無論、古井由吉のことだ、賛歌が賛歌となるはずなどないのだが。
- 作者: 古井由吉
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 1995/10
- メディア: 文庫
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