わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

古井由吉『楽天記』読了

「よろぼし」。手術後の、装具で不自由の身となった主人公の、身体の不調に追随するように、微妙に狂う精神。退院後もそれはわずかながら尾を引き、その惑いのような感覚が、死んだ旧友・奈倉の幻影を呼び起こす。
 淡々と日々を過ごしながらも、常に死を意識し、しかしだからといって怖れたり悲しんだりするのではなく、ただただ、訝しむようにして生きる。それしか道はないではないか、というような生き方は、破天荒さなど微塵もないものの、不思議と無頼に感じられる。死と淡々と向き合う態度。これこそがタイトルにある「楽天」の本質なのかもしれない。
 この作品、古井流の生命賛歌と受け取った。無論、古井由吉のことだ、賛歌が賛歌となるはずなどないのだが。

楽天記 (新潮文庫)

楽天記 (新潮文庫)