日本を代表する画家でありながら、晩期はフランス国籍を取得し異国に骨をうずめた藤田嗣治の作品展。めずらしい初期の作品や、晩期の宗教画の展示が中心。目玉は近年に発見され修復されたという巨大な作品「ライオンのいる風景」「犬のいる風景」「争闘I」「争闘II」の4作品。前者2点は平和の象徴なのだろうか。後者2点は一転して、人間の闘争本能を思うままに描いたような、ドロリとした迫力に満ちている。藤田というと乳白色ばかりがフィーチャーされるが、ぼくは藤田が時折見せる、静の中に潜んだ暴力的なエナジーや、美の中に潜んだ醜の描写にも惹かれる。美の中の醜とは、藤田の裸体画をよく見ているとなんとなく感じる。美しい女性が、美しいポーズで、美しい乳白色で描かれているのに、よくよく見れば、その稜線は時折見にくく歪む。その歪みに人間の生/性が持つ本質的な、しかし決して否定してはいけない、受け入れることで楽になれるような醜さが潜んでいるように思えてならない。
晩期の宗教画にも考えされられた。この絵を、心の底から神の存在と救いを信じている者の描いた作品と捉えていいのだろうか、と疑問に思ったのだ。中世や近代の宗教画は、信じるがゆえに悲しみが満ちてしまう、という一種の自己陶酔的な崇拝、言葉は悪いが「なりきり」的な信仰心に満ちていると思うのだが、フジタ(もう「藤田」ではない)の宗教画は、信じ切れていないが信じざるを得ない者が、自分を追い詰めるようにして描いたような、悲しい猜疑心が感じられるのだ。自分自身の生きることの悲しさを、描く対象にぶつけているような。穏やかな晩期を過ごしたというフジタだが、本当に救われていたのだろうか。見ていて、とても切なくなった。
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