わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

リービ英雄『千々にくだけて』

 9.11同時多発テロを題材にした作品集。買っておいて、しばらく読んでいなかった。
 表題作。日本で文学を教えているらしいエドワードというアメリカ人が、ニューヨークに住む妹たちに会いに行く。バンクーバーでトランジットしようとしたところ、大きなテロが発生したためにアメリカに入国できないことを知る。
 9.11は政治的・国際的な問題と悲しい死の記録で塗り固められてしまっている感がある。それはこの重大な事件を風化させぬためにも大切なことなのだが、本作のように、極めて私的な経験から、現場の渦中という視点でなく、バンクーバーでのトランジットというちょっとだけ外側の舞台から冷静に語るということも重要に思える。少なくとも、事件を冷静に見ることができる。怒りや悲しみだけにかき立てられた表現は、どうしてもどこかで偏り、ゆがんでしまう。それを避けるには、外側の視点と外側の思考は有効かもしれない。

千々にくだけて (講談社文庫)

千々にくだけて (講談社文庫)

星条旗の聞こえない部屋 (講談社文芸文庫)

星条旗の聞こえない部屋 (講談社文芸文庫)

仮の水

仮の水