美人画の上村松園の孫、花鳥風月画の上村松篁の子である淳之の展覧会。唳禽とは鳴く鳥のことで、鳥は淳之のライフワークとも言えるテーマ。鳥への愛情溢れる作品ばかり。猫だけでなくトリも好きな当方にとってはヒジョーに刺激的な企画展だった。
近年の作品は無駄な線が消え、平面的な空間の中でたたずんだり飛んでいったりするさまざまな種類の鳥たちがシンプルに、しかしイキイキと印象的に描かれている。一切の虚飾のない、ただただ鳥たちのためだけに用意された(ということは、人間の存在がまるで感じられぬ)理想の静寂世界がそこにある。具象画だというのに、抽象的な世界をのぞき見るような感覚に襲われる。しかし、描かれた鳥たちはたしかにこの具象的世界に生き、存在しているのだ。ただし、そこに人はいない。かといって大自然が感じられるわけでもない……。うーむ。この、さりげなくねじれた感覚。これは、ある種の逃避と捉えるべきか。それとも汚れきった人間社会への批判と捉えるべきか、それとも……。ぼくは、そのいずれでもなく、ただただトリへの愛情だけに駆られて画いているんじゃないかな、と思ったわけだが。この美しい世界に、穿った目を向けることはできない。
個人的には悟りの境地とも言える幸福な静寂美が溢れる近年の作品よりも、おなじ静寂は感じられるのだけれど、幸福な静寂という感じではなく、悩める画家の孤独感を自己投影したかのような、不安定な初期(?)の作品群がとても魅力的に感じられた。魅力的というより、無意識のうちに揺さぶられている感じ。どこか、共感できるところがある……のかなあ。
100円で入館できるので、気軽に見てほしい。受付前では、BSで放映されたらしい松園・松篁・淳之の三作家をフィーチャーした番組がエンドレス上演されている。とくに、竹内栖鳳に師事したこともあるらしい松園の作品はすごいッス。
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