「作品2」。さまざまなかたちの睡眠と、その先にある狂気(のようなもの)が、現実と幻想を行ったり来たりしながら語られる。
ちょっと気になった部分、引用。色川武大の、というよりも、阿佐田哲也の世界観なのかな。
以前、たくさんの危険のまっただなかで生きていたことがあった。私は大勢の中に混じってひっそりと孤立し、いつも寒々しく屈託に満ちた気分ですごしていた。あの頃に戻りたいという気はない。しかし、あの頃より今がいいとは少しも思わない。今は、枕に頭をつけてじっとしている。決断というものをしなくなってじっとしているだけだ。そうして、昔、火宅と感じていたところに、なにがしかの居心地をみつけている。
この直後、語り手は虚無的かつ刹那的な自身の生き様について語り、そんな生き方をしてしまったことを「自分のせい」だから「やむをえないけれどもそれですまないわけにもいかない」と振り返る。
だから、その頃は、死にざまから逆算して生を考えることしかできなかった。特に、自分の生命は未来に続くものとは思えなかった。私はことさらに、死にざまを重視していた。破局をポイントにしてはじめて自分の一生が存在するので、その日がくるまでに私にとてすべては仮りの姿であり単なる屈託にしかすぎなかった。
おかしなことに、そういう私が、運に半分助けられたにせよ、とにもかくにも、まだ生きているのである。
- 作者: 色川武大,平岡篤頼
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2001/05/10
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