わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

色川武大『生家へ』

「作品5」。床下防空壕。耳の遠くなった在郷軍人の父と無期限停学処分を受けた中学生の語り手の穴掘り日記。ともに居場所をなくした男であるが、父は居場所を失ったまま、穴掘りという行為自体に居場所に似た感覚を見出してしまった。それを、やはり居場所のない息子が軽く手伝ったりしながら冷静に見つめる。やがて戦争は終わる。終わってもなお、父は穴を掘ろうとする。
 太宰は「トカトントン」で終戦が呼び起こした虚無感を(ラストに否定的にひっくり返すという仕掛け付きで)描いたが、本作は虚無を虚無のままひたすら抱え込み、居場所の見えぬまま曖昧に終わってしまう。この二作を比べるのはヤボの極みだが……。

生家へ (講談社文芸文庫)

生家へ (講談社文芸文庫)

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