「群像」十一月号掲載。保坂さん、七年ぶりの新作小説。最近はずーっと「新潮」で小説論ばかりだったからなあ。
死んだはずの者が目の前に現れる、という夢から物語ははじまる。そして大切にしていたドウブツたちの死のエピソード…。
おそらく主人公であろう語り手は小説家で、猫をとても大切にしている(要するに、保坂さん自身がモデルですな)。まだ物語はそう大きくは動いていない。だからタイトルの意図や意味は不明。ただ、全体的に話題を微妙にズラしながら物語を進行させているような感覚があった。
気になることが一点。無理やり「私は」という主語を加えている文章がちょこちょこと目立つのだ。日本語は主語を省略できる。意味が通るのであれば無駄はそぎ落とし、そのぶん描写に文字数を回すのがプロの文章だとぼくは思うしカルチャーセンター(←本作にもチラリ登場)の文章講座なんかでも、主語は省略できるときは省きましょう、なーんて教わるはずだが、本作ではあえてそうせず、というより意図的に主語を加えている感じ。例えば…
私はエレベーターでカルチャーセンターのある八階に上ると、エレベーターホールからそのままつづいているロビーの広いスペースを見回したが篠島の姿は見えなかった。
私はロビーは十二年間も務めていた場所なので、いちいち見なくてもどこに何があるか知っていた。
私は事務所に入ると昼食時でも七、八人はいるはずの事務所に戸田芳文と沢井綾子の二人しかいなかったので急に不安になった。
私は歩いたってたいしたことないだろうと思ってお濠に沿って歩いてみたら本当にすぐに着いた。
なんだろう、これ…。
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