「群像」11月号掲載。大御所の短篇。おそらくはご本人がモデルと思われる高齢の女流作家が、これまた本人のご主人である吉村昭(2006年に他界)がモデルと思われる作家の夫を看取ってから数年後、ともに暮らした家を取り壊すために一時的にマンションに引っ越すのだが、その暮らしの中で、夫らしき声、すなわち幻聴を聞くようになる。その声の内容は、他愛もない。日常の中に埋もれそうな言葉の断片が、ぽつり、ぽつり、と女流作家の耳へと届く。
愛しい人との別離のあとに残された者の多くが感じる「もっと心を通わせればよかった」といった後悔とどう向き合うべきか。この問題を意識してもしなくても、死者はなんらかの形で、生者に声をかけてくる。それは残された者の記憶が捏造した幻聴かもしれないし、ある種の霊的な現象なのかもしれないが、どちらでもいい。生前は、互いに理解しあえていたはずだ。理解しあえていたからこそ、耳に届く声の内容は日常的で他愛もないものばかりなのだ。愛情は理解の上に成り立ち、理解は日常の連続から生まれるのだから。
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