「群像」1月号。戦後文学特集として掲載されていた。泰淳先生は大好きな作家だが、この作品は未読だったんだよなあ。
戦争直後の、悪の定義すらぐらつくほどの価値観の変化の中で、詩を書かずに代書業で稼ぐ主人公。軍人の男に身体を捧げることで暮らしを維持し、身体を捧げることで暮らしを維持した自分の非と悪を別の男を愛することでごまかそうとする女。その女を愛した、そしてなお愛しつづけようとする、かつては権力をもった軍人であったが今や戦犯としてお先真っ暗な男。憎しみと哀れさと孤独の入り交じった状態で内臓を腐らせながら死へと着実に近づいて行く女の夫。今のところ、その四人の人間模様というふうに読める。武田泰淳は、人間の妙な汚さ、醜さ、そしてそこから生まれた妖しい美しさや反動から見えてくる尊さを描くのが本当にうまい。
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