この作品、漱石の作品の中では一番ナゾに満ちていると思う。そもそも、「先生」と主人公「私」の友情と裏切りを通じてニンゲンのエゴを描いた、などという一般的な読解、ぼくは全然納得がいっていないのだ。だってこの作品、ラストに「私」は、どうやったらこんなに長く書けるんじゃ、ってなくらいクソ長い遺書を「先生」から送りつけられて、それを読んでるんだぜ。しかも、自分の親が死にそうでヤバいってときに。おまけに、「私」はとーちゃんをほったらかして、「先生」に会うために電車に飛び乗った。エゴだの友情だの許しだのなんだの、そんなテーマを描いているとしたら、このラストは絶対におかしい。むしろ、ラストシーンにおける状況の異常さを軸に読んでみるべきだ。なぜ、肉親の危機よりも先生の危機を選んだのか。この行動の裏側に隠れた気持ちは何なのか。それ以前の問題として、「先生」と「私」の間には世間一般にいう友情とやらが成立していたのだろうか。成立していたとすれば、友情とは一体何なのか。それは、肉親の死よりも優先されるべきものなのか。
もちろん、答えはそうヤスヤスとは見えてこないのだが。
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