「群像」三月号掲載。「おかだぼく」という方で、もう八十歳近いご高齢のようだ。1960年に「夏休みの配当」で芥川賞、1998年に「一月十日」で川端賞にノミネートされている(受賞は芥川賞のときは北杜夫 「夜と霧の隅で」、川端賞は村田喜代子「望潮」)。
おそらく老人ホーム、あるいは低所得者向けのなんらかの施設に入所している作家の「ぼく」の部屋から見える工場のあかりをひたすら観察する。その描写が作品の軸になっているのだが、学生時代からの友人の訪問のエピソードがそこに絡みつくように展開される。
描写をつづけるうちに脱線し暴走し、と後藤明生の『挟み撃ち』や小島信夫の晩期の作品のような、ジャズのアドリブ的な魅力、いやそれ以上かな、ジャズのコード進行なんてベースになるものはまったく存在しない、予測不能な展開だけが持ちうるおもしろさがある。この作家を今まで知らなかったことが残念でならないくらい。
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