「新潮」に連載されていた連作短篇集。全部読んでいるので再読ということになるのだが……。初出時は、ここ数年顕著だった死と真っ正面から対峙しその向こう側を無理やりにでも見据えようとする決死の攻撃性とでもいおうか、そんな雰囲気が本作ではちょっと大人しくなり、比較的おだやかな目で、生と死、そして狂気を見つめ、行ったり来たり、見守ったりしている。
帯にある惹句を引用。
日常の営みの、夢と現、生と死の境目に深く分け入る8篇。待望の最新連作短篇集。
闇の底にひそむ狂奔 時空を超えて匂いたつ 艶めいた記憶
裏側には本文も。
庭の面はちょっとの間に夜になっているのに、女たちの話を交わすあたりで生垣がほの白く、そこから長い夜が明けてくるかのように見えた。夜明けにようやく着いた遠来の客を、表まで出て迎えている。手を取りあわんばかりにしている。まずおたがいをいたわりあうだけでも、話はつきないらしい。生け垣の葉が鳴って、風が渡りはじめた。百年、と老女の言葉を男は想って、背後に刻々の沈黙を感じた。女たちの影が交互にうなずきあっている。
- 「生垣の女たち」
- 作者: 古井由吉
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/03
- メディア: 単行本
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