年の瀬の慌ただしさの中で、同棲する女から、男と共通の知人である別の女と偶然再会したと告げられる。女は男が以前その女と寝たことがあるのを知らない。その夜、その女の肌の匂いが、肌を重ねているときになぜか漂いはじめる。気だるさと皮肉混じりの冗談の中で、二人は別れ話をしたものの結局別れられなかった雨の日のことを思い出す……。その二人の姿には、なぜか「心中」という言葉がよく似合う。
誰も死んでいない。だが、息を潜めるようにして生きるうちに、次第次第に社会から疎外された感覚に犯され、他者から見れば死んだも同然になる、ということはあるだろう。死んだ、もういない、と噂されていても、一方で当人は、案外噂をする方よりも、よほど生々しく、そして力強く生きているものではないか。そんなギャップを、ギャップとしてではなく、生と死の境目として描いている……のかな。
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