「群像」6月号掲載。昼田の育ての親であり、ハッコウたち兄弟の実の父親である公平の突然死。昼田たちは葬儀の手順を踏みながらそれを受け入れ、ゆるやかにではあるが、父の死によって休業状態になっていた書店を再出発させる。しかし、それにより昼田とハッコウの二人のあいだに亀裂が生じはじめる……。
本屋の息子のくせに本を読まず、しかし自分の世界は自分の中だけではしっかり持っていて、でも引き籠もりだからそこに外部との接触や外部との交通がないハッコウに対し、読書家で(たぶん楽天がモデルの)IT企業で働いている、社会的には自立している昼田。二人の言い争いの部分にちょっとおもしろいところがあったので、引用。表現は荒っぽいしあまりに不遜で独裁的なのだが、ぼくが本や言葉自体が好きな理由に通じるところがある。
「(前略)オレは、本を読んで、自分の考えごとが枠に収まっちゃうのが嫌なんだよ」
「そうかもしれない。言葉になる前の世界に、暴力的に枠組みを与えるのが、小説なのかもしれない」
ちょっと考えてから、オレは頷いた。
オレはその暴力が好きなのだ。世界に暴力をふるいたい。言葉以前の世界はもやもやしている。波見出しそうなものを無理やりぎゅうぎゅうに器に収めてやる、あるいは、世界を切り取って、残りは屑に。曖昧なものに名前を付けてしまう強大な力、微妙な力加減でそのパワーを操る人々。そのふざけ具合と、切なさ。
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