近年の作品の中ではもっとも柔らかに生と死の境目を見つめ、描いている。無理やり分け入って、死のほうに片足突っ込んで書くような緊迫感はなく、生の側から、時折垣間見える死のかけら(あるいはきざし)のようなものを、それを包み込んだり浮かび上がらせたりする周囲もふくめ、やや大きな視点から語っている。その語り口にときおり、色気が漂う。性を生の証明として、暑苦しい描写ではなく、ごく自然な営みとして描く。その自然な力の抜け方が、生と死の境目を、ある作品では曖昧にし、ある作品でははっきりとわける。そんな感じの作品でした。
- 作者: 古井由吉
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2010/03
- メディア: 単行本
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