長かった…。この作品にメッセージやいわゆる読書感想文的な感動、そしてエンタメ的なおもしろさを求めてはいけない。ここにあるのは、ぼくたちが住むこの世界によく似た、しかし根本的に何かが違う(ルーセルが構築した)異世界についての冷静なる描写。ただそれだけだ。こんな奇妙なモノを突きつけられた現実世界に生きるぼくらは、この作品とどう向き合うべきか。この答えは、実は意外に簡単だ。ただ、受け入れればいいのだ。それだけでいい。緻密な計算によって描かれたこの作品に社会批判のような側面はまったくない。だがこの作品を読むことで、現実世界のつまらなさ(というよりは予測可能性、とでも言ったほうがいいかな)、そして現実世界を生きるぼくたち現代人の興味関心の狭さと発想力の貧困さが、浮き彫りになるのだ。もちろんルーセルは現代人に発想力の危機について警鐘を鳴らそうなんて考えてはいなかったと思う。だが、それでもぼくらは、この作品をフィルターにして、改めて現実を見つめてみるべきである。もちろん、現実を批判しようなんてまったく思わずに。
- 作者: レーモンルーセル,Raymond Roussel,岡谷公二
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2004/08
- メディア: 新書
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