わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

練馬美術館「稲垣仲静・稔次郎兄弟展」

 大正期に傑作を発表したものの二十五歳で他界した稲垣仲静と、その弟で染色作家として人間国宝に認定された稔次郎の二人展。仲静は動物画が中心。晩期の作品は対象に溶けこむような感覚と対象と対峙する姿勢の両方が繊細なタッチで描かれている。この感覚は、他の絵画作品ではなかなか感じられないんじゃないかな。仲静、現存する作品が少ないらしく、習作やデッサンなど、残っているものをありったけ飾ってみましたという感じだったので、これはどうかなあ……というのもかなり混じっていたのが残念。まあ、彼の成長の軌跡がわかるというメリットもあるのだけれど。
 あまり期待していなかったのだが、驚いてしまったのが弟の稔次郎。自然世界、寺社仏閣のある風景をモチーフにした着物やタペストリーは、デザインとして見事に昇華させて強烈なインパクトを生み出しているにもかかわらず、目の前にある自然と一体化する優しい感覚、言ってみれば自然に対する日本的な愛情に満ちあふれていた。こちらも、先日観た草間彌生のような「増殖と反復」の芸術と言えなくもないが、草間の作品が自己の内面から噴出した「増殖と反復に擬態した個=わたし」であるのに対し、稔次郎の作品は明らかに自己の外にある。「増殖と反復を繰り返す自然=わたし」とでも言えようか。よく言われる「自然との一体化」とは、こういうことを言うのか、と強く実感できた。10月24日まで。