思うところあって読んでみた。大学時代はドイツ語学科に属していたがゼミはドイツ文学・思想関連で、マルクスも当然ながら取り組んだ。だが『資本論』を第1巻だけだが読んだり、その他『経哲草稿』や『ルイ・ボナパルトのブリュメール十八日』『ドイツ・イデオロギー』『共産党宣言』などに体当たりしてみて、ある程度、それなりの手応えは感じたものの、あっさりと跳ね返されることのほうが圧倒的に多く、まあ要するに、マルクスとは苦々しい読書対象である。
本作は解説書でも入門書でもない。おそらくは当時はびこっていたマルクスのロシア共産主義的解釈を一掃するために書かれたのだろう。今読むと新鮮さはないが、苦労して読み取ろうとしたマルクスの思想が超コンパクトにまとめられていておもしろかった。
ところで。現代という時代は、価値交通がうまくいっていない、というか、歪んでいる、というか…。労働価値と労働から生まれる商品価値は必ずしも等価ではないのだが、その差が近年、よりおかしな形に開きはじめている。マルクスの生きた十九世紀のヨーロッパもしかりなのだが、二十一世紀の現代日本も負けず劣らず…。そんなことを、本作を読んで考えた。いや、そんなことを漠然と考えていたから、本作を読みはじめた、と言えなくもないのだけれど。

- 作者: 吉本隆明
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2006/03/14
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