「群像」七月号掲載。メルヘンチックなタイトルだが、円城塔だから一筋縄でいくはずがない。友幸友幸という妙な筆名の作家が書いた『猫の下で読むに限る』という奇書の引用から作品ははじまる。もちろん、作者も作品も架空のもの。ちょっと書き出しを引用。
旅の間にしか読めない本があるとよい。
旅の間にも読める本ではつまらない。なにごとにも適した時と場所があるはずであり、どこにも通用するものなどは結局中途半端な紛い物であるに過ぎない。
そいつは屹度、『逆立ちする二分間に読みきる本』のような形をしており、これは正に逆立ちして読むように作られている。逆立ちしている間でなければきちんと意味は掴めない。平時に開いて字を追うことはできるのだが、実際に逆立ちして終えた場合の読後感とは比べものにもなりはしない。頭にのぼる血流を巧みに利用したお話なのだ。これを応用することにより、『怒りの只中で開かれる啓示』などが容易に作れる。
変な作品だから覚悟しろ、それから読書好きな人間でないと読めないぞ、とほのめかしているかのような文章。この作品、つまらないわけがない。あわよくば、時間と空間の本質を垣間見ることができるかも知れない、などと、妙な期待すらしてしまう。
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