長い遠回りの末にようやくたどり着いた馬加康胤の首塚の由来。闇雲に歴史にぶつかっていたのではなく、ここにたどり着くための必然としてすべてが紹介されていたのだ、と十分に納得できる流れ。この経緯において馬加康胤は一度たりとも登場していないというのに、彼の名が登場したときは期待で胸が高鳴り、その死と首塚の由来についてが判明すると、悲しみというわけではないのだが、感動を覚えた。さらにはその世界が(なんと「忠臣蔵」を通じて)ボルヘスにまで広がる。そして最後には、語り手の日常世界、黄色い箱のある千葉の地方都市(おそらく幕張。幕張=馬加(まくわり))に帰ってくる。
歴史関係の資料を紹介しているだけの作品のようでありながら、実は緻密に小説として構成されている。ほかにはちょっとないタイプの作品だ。
しかし、一番気に入っているのは巻頭に収録された、すべての出発点となる短編「ピラミッドトーク」。時代と事件と社会とに混乱しながら(されながら)過ごされる日常、その複雑性に飲み込まれる主体性が、ピラミッドトークという名の音声時計に巧みに象徴されている。この作品だけで『挟み撃ち』に並ぶくらいのおもしろさがある。
- 作者: 後藤明生
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1999/10
- メディア: 文庫
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