わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

こうの史代『この世界の片隅に』

 広島から呉に嫁いたお絵かきの好きな主人公・すずの半生(メインは終戦前の数年間だが)を、戦争中の日常を通じて描いている。生活は戦況とシンクして日に日に厳しくなっていくのだが、その厳しさすら楽しんでしまおうという、あっけらかんとしたのどかな明るさが作品世界全体を覆っている。だがその覆いの中には、夫と以前関係があったらしい女性への嫉妬、幼なじみと一夜を共にすることを許そうとした夫への怒り、といった人間らしい感情が静かに潜む。夫婦は微妙にすれ違いながらも幾度かの大空襲を経て終戦を迎えるのだが、すずは利き腕の右手を爆撃で失ってしまう……。
 失ってしまったものよりも、得るもののほうが大きく、失われなかったものもまた、たわいもなくて呑気の極致ではあるのだが、これまた大きい。だから、復興できる。いくらでもやり直せる。そんな、不思議な希望に最後は包まれ、読者は奇妙な幸福感に恍惚となる……。
 セキセイインコとの日常を描いた『ぴっぴら帳』もおもしろかったが、本作はこうの史代が別の一面を見せ、そして見事に成功させた最高傑作……かもしれない。映画にもなった『夕凪の街 桜の国』もなかなか素晴らしいらしいので、今度読んでみよう。

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 上 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 中 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 中 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 下 (アクションコミックス)

この世界の片隅に 下 (アクションコミックス)

 北川景子主演でドラマになっていたらしい。知らなんだ。
終戦記念スペシャルドラマ この世界の片隅に [DVD]

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