わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

ルハルト・ケップフ『フクロウの眼』

第二十二章。ボルヘス不在論、間に飛行機墜落の危機を挟んで、またボルヘス不在論。そういえば、ピンチョンが架空の作家なのではないかというウワサが立ったことがあったな。MITのプロジェクトだとか、サリンジャーの別名だとか。
 ラストに、本作にしては珍しく希望に満ちた部分があったので引用。もっとも、かなり皮肉っぽい希望ではあるのだが。ちなみに、一行空いたあとのモノローグは、本作の主人公であるトゥルゼルンの地方郵便配達人自身の言葉。自分を三人称扱いにしているが、これはこの人物の特徴。

 僕はうさんくさいというふうに男の様子を眺めていた。男は、勿体らしくばつが悪そうに微笑みながら立ち上がると、汗をかいた両手を上着で拭って、開いた扉の方へ向きながら、次の様に言い残して立ち去った。
「別の時代が訪れるかもしれません。輝かしい時代がね。そうなれば、人間は崇高な夢から目覚め、その夢を再び見出すでしょう。眠りのほかに人間が失ったものはないのですから。」
 一歩外に出てからも、彼は僕にまだ呼びかけてきた。どんな秘密も、そこへ至る道ほどの値打ちはないのですよ。
 
 こんなことを知るためだったら、この差出人はスラバヤからバンドンへわざわざ飛ぶ必要もなかっただろう。トゥルゼルンの地方郵便配達人からもっと安く聞けただろうに。
 結局われわれなどは毎日この標語通りに行動しているのだ。

ふくろうの眼 (文学の冒険)

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