ゲタさん、という渾名の同級生がいた。名字が「○毛田」(○には漢字1文字が入る)だったので、下の二文字を取ってゲタさん。小柄だが四角い顔をしていて下がり眉だったので、ホントにゲタっぽいのだが、そう感じていたのはどうやらぼくだけのようで、誰もゲタさんのことをカランコロンのゲタさんなどと呼んではいなかった。ただ、単にゲタさんだった。理由は知らないが母子家庭で、兄と二人兄弟。二人とも四角い下がり眉で、今思い出しても笑ってしまうくらいそっくりだった。母親もそっくりだったらもっとおもしろいのだが、父兄参観日に確認したらそうではなかったのでガッカリした記憶がある。失礼な話だが。TVゲームが大好きで、学校で禁じられていたインベーダーゲームや当時流行したパックマンなどが異様にうまく、たいして小遣いをもらえていなかったのでゲームなんて全然やらなかったぼくからすれば彼は超人だったのだが、時折見つかっては怒られ、ものすごくいじけていた。今でも彼が、教壇に立たされてこっぴどく叱られ、いじけながら、そしてちょっぴり怒りながら、半べそをかいて席に戻る姿をありありと脳裏に再現できる。小学三年から中学二年までおなじクラスで、三年生のときにぼくは新設された中学校に移転になったのでそれきりの関係になってしまったが、彼はその後定時制の高校に入学すると同時にうちの母が勤めていた会社に就職したから、彼の話は母からしょっちゅう聞いていた。そのゲタさんが、夢に出てきた。二人で一緒にパンを買っていた。小学校の校門のそばにあったパン屋さんのコッペパンだ。真ん中にナイフで切り込みがはいっていて、そこにたっぷりといちごジャムが塗られている。それを二人で、通学路に突っ立ってほおばっていた。このパン屋のパンは母が好きだったのでときどき買って食べていたが、ゲタさんと買い食いしたという記憶はない。ゲタさんは、そんな金があったら絶対にゲームをやっている。そういえば、彼は放課後になると必ず駄菓子屋にいたのだが、お菓子は買わず、店先に置かれていた1プレイ50円の、型遅れのゲームを延々とやっていた。食にはあまり関心がなかったようで、中学時代はときどき彼から給食の一部をもらっていた記憶がある。だからぼくはゲタさんと買い食いなんてするはずがないのだ。だが、夢のなかでは買い食いしていた。二人とも、黙ってほっぺいっぱいにパンをほおばっていた。ありえない内容の夢だが、妙に懐かしくて、少しだけだが涙が出てきた。五時五十分起床。
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午後は家事ばかり。シャツにアイロンを当て、夏物と秋物を入れ替えていたら日が暮れた。