わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

土田英生セレクションvol.2「燕のいる駅」@三鷹市芸術センター

 演劇の世界についてはまったく無知に近いのだが、土田英生という演出家の作品は、去年「-初恋」を観て以来とても気に入っているので、今回も観ることにした。
 「日本村」と呼ばれる街の、駅員の男と売店の女性の、淡く切なくじれったい恋。…と書くとのんびりした物語のように思えるが、設定は近未来らしく、日本村とはノスタルジックな街並みだが周囲から隔離された独立空間であり、そこでは外国人の差別と排斥が政策として行われているらしい、そして街の向こう側では戦争が起きたようで、人々はみな避難し、駅員の男、売店店員の女、外国人の男、外国人排斥反対運動を行う男とその男を待つ女、二人の葬儀屋、そして社交性ゼロの終末ヲタのようなキモチ悪い男だけが、駅のなかに取り残されてしまい、彼らは少しずつ死に近づいていく…と説明を加えると一気に深刻さが増す。しかし実際は、あちこちにギャグがちりばめられ、何度も何度も純粋に笑わせてくれる作品。その笑いが、登場人物たちの苦悩によって一瞬にして影へと転換され、切なさや悲しさ、そして人間の原罪のようなものの感覚を、何倍にも増幅してしまう。脚本も演出も見事。舞台でしかできないことを、ふんだんに盛り込んでいる。
 97年初演の作品だというのに、設定に東日本大震災後の日本と妙に重なる部分があるのもオドロキ。5月27日(日)まで。興味がある方は、ぜひ。名古屋・大阪・北九州公演もある模様。
http://mitaka.jpn.org/ticket/1205180/