わたしが猫に蹴っとばされる理由

文学・芸術・哲学・思想の読書&鑑賞日記が中心ですが、雑食系なのでいろいろ取り上げてます。猫もいるよ♡

大江健三郎「晩年様式集(5)サンチョ・パンサの灰毛驢馬」

「群像」六月号。震災以降、不安定になってしまった息子アカリのてんかん発作、そしてそこからの恢復。埋没しかけていた幼いころの思い出であるが行方不明になっていた「ドン・キホーテ」の挿絵が見つかり、アカリは喜ぶのだが、その喜び方が、主人公である古義人やその娘でありアカリの妹である真木の考えや感情から、かすかに捻れる。そもそも、本作は連載1回目から全登場人物の思考や感情が、見事なくらいねじれの位置になっている。アサ・千樫・真木と古義人の思考は決して交わることがない。女三人は結託しているようにも見えるが、それでいて、やはりどこか疎通できていない感じがある。アカリとは、誰もがすんなりと意思疎通できない。こちらの意志を押し通すこともできない。その閉塞感が、息苦しいのではなく、妙に空疎に読めるのが不思議だ。

群像 2012年 06月号 [雑誌]

群像 2012年 06月号 [雑誌]

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